日本武尊伝説

日本武尊の足跡を追いかける

 
 
 
 

四 道 将 軍

四道将軍  

 

崇神天皇陵

 四道将軍は『日本書紀』崇神天皇10年9月9日条に見られる皇族の指揮官で、大和朝廷が北陸、東海、西道、丹波(丹波国・丹後国・但馬国)を平定するために派遣した4人の将軍です。
 これまで、大和朝廷が完全に支配下に置くことができたのは大和地域周辺が中心であったと思われます。九州や東海以東はそれぞれの首長が治めており、世の中は混乱が続き、全国は一つにまとまっていなかったからです。この状態を換えようとしたのが崇神天皇です。崇神天皇前までの天皇についてはその存在が疑われてはいますが、崇神天皇は実在した最初の天皇だったとも言われています。それまでの狭い地域の支配から全国という広大な領域を平定するためには武力によって「まつろわぬ者たち」を征伐する必要がありました。この目的を達成するために四道将軍が各地に派遣されました。そして、彼らの活躍によって大和朝廷の支配領域が飛躍的に拡大しました。
 

 
 四道将軍とは以下の4人のことです。
 
  大彦命(おおひこのみこと)  
    第八代孝元天皇の皇子です。
  武渟川別命(たけぬなかわわけのみこと)
    第八代孝元天皇の孫で大彦命の子です。
  吉備津彦命(きびつひこのみこと)
    第七代孝霊天皇の皇(弟の若建吉備津彦も活躍した)
  丹波道主命(たんばみちぬしのみこと)
    第九代開化天皇の皇子

 この後の時代では、大和政権が治めた倭国の領域は、北陸道、東海道、東山道、山陽道、山陰道、南海道、西海道の7道となりました。
 
 四道将軍の話は創作とする説もありますが、稲荷山古墳(埼玉県行田市)から「金錯銘鉄剣(きんさくめいてっけん)」が発見されたことで見方が変わってきました。この鉄剣は大和朝廷による支配が全国に広がったことを証明するものとして歴史の教科書にも登場します。また「大王」の存在を裏付けるものとしても意味があります。稲荷山古墳出土の鉄剣は江田船山古墳(熊本県)出土の鉄剣とともにとても重要な意味を持っています。
 
 5世紀後半、大王(大和朝廷)の権力は西は九州から東は埼玉まで、ほぼ全国を治めていたと考えられます。稲荷山古墳の鉄剣には「獲加多支鹵大王」と文字が刻まれており、江田船山古墳の鉄剣には「獲□□□鹵大王(□は読めない)」と刻まれ、ともに「わかたけるのおおきみ」と読み、第22代雄略天皇をさしていると考えられています。さらに、鉄剣には何人かの人名が書かれていますが「乎獲居臣上祖名意富比垝」(「おわけのおみのおやでなはおおひこと」読めます。)と刻まれ、この人物が大彦命と同一人物であるというのが有力説です。これに基づけば、四道将軍の一人の名が鉄剣からわかり、四道将軍は実際に存在した人物だったことがわかります。同時に、四道将軍の活躍は創作話ではないことが証明されることになるのかもしれません。
 

 
将軍 大彦命(おおひこのみこと)
 
父 第八代孝元天皇  (大彦命は第1皇子) 
母 鬱色謎命(うつしこめのみこと)
 
<派遣された経路>

 奈良→近江→北陸→福井→石川→富山→神岡(岐阜:父子*再会) →富山→新潟→会津(父子再会)→秋田→伊賀          *子は武渟川別命
 

敢国神社

 孝元天皇の皇子の武埴安彦命(たけはにやすひこのみこと)が妻の吾田媛(あたひめ)とともに反乱を起こしたので、彦国葺(ひこくにふく)とともに山背の木津川で戦い、武埴安彦命を征伐しました。また、都から派遣された吉備津彦命が吾田媛を討ちました。大彦命はこの後北陸に向かいました。


 
 

御墓山古墳

  敢国(あえくに)神社の社伝によると三重県伊賀市佐那具町の御墓山古墳が大彦命の御陵 としています。

 
 
  
 
 
<大彦命が祀られている神社>
 
  伊賀一之宮 敢国神社(三重県伊賀市一之宮)
  舟津神社(福井県鯖江市)
       伊佐須美神社(福島県会津美里町)
  古四王神社(秋田県秋田市)
 
 

 
将軍 武渟川別命(たけぬなかわわけのみこと)
 
父 大彦命 
母 ?
 
<派遣された経路>
 
  奈良→近江→関ヶ原(岐阜)→神岡(岐阜:父*子再会)→飛騨→諏訪→山梨→栃木→会津(父子再会)    *父は大彦命
 
<「たけぬなかわわけのみこと」の漢字表記>
 『日本書紀』「武渟川別」「武渟河別」
 『古事記』「建沼河別命」 
 
 崇神60年には吉備津彦命とともに出雲国の出雲振根を征伐しました。
 
<武渟川別命が祀られている神社>
 津神社(岐阜県岐阜市)
 健田須賀神社(茨城県結城市)


 

 
将軍 吉備津彦命(きびつひこのみこと)
 
父 孝霊天皇(吉備津彦は第3皇子) 
母 倭国香媛(やまとのくにかひめ)
 
<名前の漢字表記>

『日本書紀』 彦五十狭芹彦命(ひこいさせりひこのみこと)
       吉備津彦命(きびつひこのみこと)-平定した後の名
 
『古事記』  比古伊佐勢理毘古命(ひこいさせりひこのみこと)
       大吉備津日子命(おおきびつひこのみこと)
 
 吉備冠者(きびのかじゃ)と呼ばれることもあります。

 孝元天皇の皇子の武埴安彦命(たけはにやすひこのみこと)とその妻吾田媛(あたひめ)が謀反を起こしたので大彦命とともに制圧しました。この後、吉備国の平定に向かいました。
 

鬼ノ城

 吉備津彦命は桃太郎のモデルとされています

 吉備の山にいた渡来人とされる温羅(うら)を討ったことが桃太郎の物語となって伝わっています。鬼である温羅は岡山の鬼ノ城(きのじょう)を拠点に暴れていましたが吉備津彦命が犬飼健(いぬかいたける)、楽々森彦(ささもりひこ)、留玉臣(とめたまおみ)ら3人の家来とともに戦い勝利しました。温羅の首は吉備津神社の釜の下に封じられました。 

 崇神60年には武渟川別とともに出雲国の出雲振根を征伐しました。
 

<吉備津彦の墓>
 中山茶臼山古墳(なかやまちゃうすやまこふん)大吉備津彦命墓 岡山県岡山市北区吉備津

 『岡山市史』では大吉備津彦命の墓を岡山市にある前方後方墳の備前車塚古墳(岡山県岡山市中区四御神・湯迫)に比定しています。

 
<吉備津彦命が祀られている神社>
 
 吉備津神社(岡山県岡山市)
 吉備津彦神社(岡山県岡山市)
 田村神社(香川県高松市)
 吉備津神社(広島県福山市) 
 吉備津神社 - 岡山県周辺に分布。
 鶴崎神社(岡山県都窪郡早島町)
 御崎神社(岡山県)
 艮御崎神社(岡山県)
 他

 吉備津彦命は日岡神社(ひおかじんじゃ)祭神の天伊佐佐比古命(あめのいささひこのみこと)と同一人物とされています。 
 兵庫県加古川市加古川町大野字日岡山1755
        
 天伊佐佐比古命は景行天皇の皇后である播磨稲日大郎姫命(はりまのいなびのおおいらつめのみこと)が大碓命と小碓命(日本武尊)双子を出産する時、安産祈願をしたと伝えられています。
 
 

 

 
副将軍 若建吉備津彦命((わかひこたけきびつひこのみこと)

 
 異母弟の若建吉備津彦命が兄とともに派遣されました。この若建吉備津彦命
が吉備氏の祖となっています。そのため若建吉備津彦命を「吉備津彦」とすることがあるようですが、一般に「吉備津彦」とは兄の大吉備津彦のことです。
 
父 孝霊天皇 
母 ?

 兄とともに山陽道に派遣され、鬼の温羅を討ちました。
弟を「吉備津彦」と称することもありますが「吉備津彦」は一般的に吉備神社や吉備津彦神社の主祭神「大吉備津彦」をさしています。
 *日本武尊と弟橘姫との間に「稚武彦王(わかたけひこおう)」がいるが別人です。

<名前の漢字表記>
 『日本書紀』 「稚武彦命」
 『古事記』  「若日子建吉備津日子命(わかひこたけきびつひこのみこと)」 
        「若建吉備津日子命」
  
 他      「若武彦命」
 

 
丹波道主命(たんばみちぬしのみこと)
 
父 彦坐王(ひこいますのみこ)-開化天皇の皇子
母(『古事記』)息長水依比売娘(おきながのみずよりひめ)

 渡来人である天日槍(あめのひぼこ)一族が鳥取から兵庫にかけての日本海沿岸で騒いでいたので、愛知県知多半島の海部一族とともに攻めました。
  
<派遣された経路>
  奈良→舞鶴市→豊岡市

 丹波之河上之摩須郎女との間の皇女に日葉酢媛命(ひばすひめのみこと)がいますが、この媛は景行天皇や倭姫命の母となります。

<丹波道主命が祀られている神社>

神谷神社

  

 神谷太刀宮神社(京都府京丹後市)
 他

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